2019/01/12更新
(C) S.Yoshimoto 2004,2019
50、300B、FullMusic205D、及びFullMusicPX25/n/5Vを使用できるシングルアンプをご紹介いたします。本アンプは4種類の直熱3極管を簡単なスイッチ切り換えのみで使用できます。強力な入力トランスドライブ回路により各管種とも高い出力を得ています。簡潔なシングル回路と自己バイアス方式の出力段により調整個所なく製作が容易なアンプです。
今回は下記の6種の球を用いて動作確認を行いました。
各管を実装した場合の本アンプでの主要な特性は下表の通りです。
300B系では10W、50とPX25では約7W、205Dでは3.3Wといずれも標準的なアンプより高い出力を得ています。
WE300B | 300B/n | 300B | 50 | PX25/n/5V | 205D | |||
Rl | 5KΩ | 5KΩ | 5KΩ | 5KΩ | 5KΩ | 6.7KΩ | 5KΩ | 6.7KΩ |
最大出力(5%歪) | 9.9W | 10.3W | 10.3W | 7.5W | 5.3W | 7.1W | 2.6W | 3.3W |
歪率(1KHz) 1W | 0.41% | 0.30% | 0.39% | 0.60% | 0.77% | 0.57% | 1.14% | 0.85% |
2W | 0.61% | 0.47% | 0.57% | 0.94% | 1.27% | 0.93% | 2.75% | 1.36% |
6W | 1.25% | 0.91% | 1.07% | 3.36% | 3.29% | |||
残留雑音 | 0.3mV | 0.3mV | 0.3mV | 0.25mV | 0.22mV | 0.23mV | 0.25mV | 0.27mV |
利得 NoNFB | 61倍 | 60倍 | 61倍 | 68.5倍 | 75.3倍 | 79.4倍 | 68倍 | 78.1倍 |
NFB | 21.7倍 | 21.5倍 | 21.7倍 | 22.8倍 | 23.1倍 | 23.9倍 | 22.4倍 | 23.2倍 |
帰還量 | 9db | 8.9db | 9db | 9.6db | 10.3db | 10.4db | 9.6db | 10.5db |
右からWE300B、FullMusic300B/n、FullMusic300Bです。
WE300Bは本家300Bです、この球は87’製です。FullMusicの300Bは茄子型の外観が特徴です。300B/nはメッシュプレートで点灯するフィラメントの全形が見えます。本アンプではWE300Bを上回る出力が得られ特性も優秀です。
FullMusicの新作50/nです。RCAの50に近い特性です。FullMusic300B/nと同型のメッシュプレートを持ち、外観はST型、フィラメントはRCA 50と同じ7.5Vです。
欧州の銘球PX25に近い特性です。300Bに比べてRpとμが高く、300Bの半分程度のバイアスで動作する高感度が特徴です。2枚の大型のメッシュ型板プレートを持っています。ベース(ソケット)とフィラメント電圧はオリジナルPX25とは異なます。ベース(ソケット)は一般的なUXとなり、フィラメント電圧も5V 1.3Aとほぼ300Bと同じになっています。
FullMusic205Dです。オリジナルのWestan Electric製WE205Dと同一のプレート特性を持つと発表されています。 しかしオリジナルWE205Dとはフィラメント電流とソケット仕様が異なり、フィラメント電流は1.6Aから1.2Aに減少、ソケットはスモールUVから300Bと同じ一般的なUXに変更されています。フィラメント電流の減少はフィラメント材の進歩による省エネ化、ソケットは現代での入手容易性への配慮です。
WE205Dと同様、2枚の板状のプレートを持っています。本当に板状で箱状ではないので左右のサイドは開放です。フィラメント、グリッド、プレートの間隔が広く、グリッドも目の広い間隔で巻かれています。古典管らしいゆったりとした作りです。フィラメントはM字状に張られています。同型でメッシュプレートを持つFullMusic205D/nもあります。
1. 4種類の直熱3極管への対応方法
●フィラメント電圧の問題
各管のフィラメント電圧は205Dが4.5V、300BとPX25/n/5Vが5V、50が7.5Vです。電源トランスのフィラメント巻線をロータリーSWによって切り換えて対応します。
●自己バイアス・カソード抵抗の問題
各管により、適切なプレート電流を得るカソード抵抗値が異なります。今回は多くの動作点を検討した結果、205D、300B、PX25/n/5Vには820Ω、50には1040Ωのカソード抵抗を用いる事にいたしました。カソード抵抗もフィラメント電圧と同時にロータリーWSにより切り換えます。
2. 全体構成
3. 出力段
自己バイアス方式の出力段です。高い出力を得る為にグリッド+領域まで振り込むA2級動作を採用しています。
A2級の動作範囲を有効に活用する為、一般的なA級動作点より無信号時のプレート電流を多めに設定しました。
出力管のグリッド+領域ではグリッド電流が流れ入力インピーダンスが低下します。この為、入力トランスRC-20は2次巻線を並列に接続し1:0.9のステップダウン動作とし強力に出力管をドライブします。
自己バイアスの為のカソード抵抗は820Ωと1040ΩをロータリーSWにより切り換えます。
出力トランスのRW-20は5KΩ:6Ωのトランスです。8Ωのスピーカを用いた場合は6.7KΩ:8Ωとなります。
50と300Bの場合は5KΩ負荷(6Ωスピーカ)が最適な負荷となります。PX25/n/5Vと205Dの場合は6.7K負荷(8Ωスピーカ)が最適な負荷となります。 しかし、多少の出力減少はありますが4Ω〜8Ωのスピーカであれば問題なく使用できます。
管種切り換えロータリースイッチは50、300B、205Dの3点選択です、PX25/n/5Vは300B位置で使用します。
WE300B | 300B/n | 300B | 50 | PX25/n/5V | 205D | |||
Rl | 5KΩ | 5KΩ | 5KΩ | 5KΩ | 5KΩ | 6.7KΩ | 5KΩ | 6.7KΩ |
Rk | 820Ω | 820Ω | 820Ω | 1040Ω | 820Ω | 820Ω | ||
無信号Vp | 395V | 395V | 400V | 415V | 425V | 435V | ||
無信号Vk | 64.5V | 65V | 62V | 58V | 38V | 26V | ||
無信号Ip | 78mA | 79mA | 76mA | 56mA | 46mA | 32mA | ||
無信号Pd | 26W | 26W | 26W | 20W | 18W | 13W | ||
フィラメント電圧 | 5V | 5V | 5V | 7.5V | 5V | 4.5V | ||
最大出力(5%歪) | 9.9W | 10.3W | 10.3W | 7.5W | 5.3W | 7.1W | 2.6W | 3.3W |
4. ドライバ段
大型5極管EL34の3結とRC-20大型入力トランスの組み合わせによりグリッド電流に負けない高出力を得ています。RC-20入力トランスは1次直列、2次並列結線です。RC-20の2次側は負荷抵抗なしのオープン(開放)使用とします。オープン使用特有の伸びやかな音質が得られると共に、入力トランスからの全供給電流を無駄無く出力管のグリッドに送り込む事ができます。
ドライバ管としてEL34を用いるのはいささか大げさですが、大きなドライブ電圧を得る為に、電源電圧が380Vと高くドライバ管の耐圧が重要となります。EL34のSg耐圧は400Vと高く余裕を持って使用できます。
EL34は実効プレート電圧260V、プレート電流24mAで動作します。
5.電圧増幅段(初段)
電圧増幅段は12AX7の片側ユニットのみ使用します。余ったもう片側は使用しませんプレート負荷抵抗は100KΩです。負荷抵抗を100KΩと高くしたのは高利得を得る為と電圧増幅段の高域時定数を最も大きく(高域の帯域を最も狭く)して負帰還の安定度を確保する為です。、次段のドライバ段とは直結としました。入力にある10KΩと100PFのハイカットフィルタは外来高周波雑音やSACDの漏れ雑音の阻止用です。
6.負帰還
本アンプは3段増幅なので裸利得が高く、そのままでは使いにくく、また205D等、内部抵抗が比較的高い球も使用する為、そのままでは適切なダンピングファクタが得られず低域の制動に難があります。
そこで負帰還を用いて利得の減少とダンピングファクタの増加を図ります。仕上がり利得の目標を20倍程度とした帰還抵抗を設定し、9〜10dbの負帰還を掛けています。
2段のトランスを含む負帰還にも係わらず、RC-20入力トランスとRW-20出力トランスの素直な高域特性により非常に安定した動作と良好な容量負荷時方形波応答特性を示します。
7.電源部
電源トランスはノグチの安価な汎用品PMC-170Mです。AC350Vを整流管274B/nによりセンタータップ整流し400V前後の直流電圧を得ました。チョークもノグチの汎用品PMC-1520です。平滑用電解コンデンサは縦型小型一般品です。
フィラメント電源は205D用の4.5Vと300BとPX25用の5VはAC6.3Vをブリッジ整流して得ます。205D用の4.5Vは0.2Ωを直列に加え0.5V電圧を落とします。50用の7.5VはAC6.3VにAC2.5Vを直列に繋ぎAC8.8Vとしブリッジ整流します、しかしAC8.8Vのままでは得られる直流電圧が高すぎるので0.16Ωを直列に加え電圧を調整します。フィラメント電圧はロータリースイッチによって切り換えます。整流後は2段のπ型フィルタで平滑し残留リップルの低減します。残留リップルが少ないのでハムバランサボリュームは省略しました。
全回路図(50S-V3-SEM.GIF) 更新2019/01/12
シャーシはシングルアンプですが弊社のMS-2a モノラルアンプ用シャーシを用いました。縦長のシャーシでステレオで2台並べるとフルサイズコンポのアンプと同程度の幅となります。
シャーシ前方(写真では左側)から12AX7、ドライバ管EL34、出力管、整流管274B/nと並びます。出力管と整流管の間にあるのが管種切り換えスイッチです。
前面 |
後面 |
内部配線 |
|
電圧増幅・ドライバ部 |
出力・整流部 |
電源部(左側) |
電源部(右側) |
1. 利得・出力・残留雑音
WE300B | 300B/n | 300B | 50 | PX25/n/5V | 205D | |||
Rl | 5KΩ | 5KΩ | 5KΩ | 5KΩ | 5KΩ | 6.7KΩ | 5KΩ | 6.7KΩ |
最大出力(5%歪) | 9.9W | 10.3W | 10.3W | 7.5W | 5.3W | 7.1W | 2.6W | 3.3W |
歪率(1KHz) 1W | 0.41% | 0.30% | 0.39% | 0.60% | 0.77% | 0.57% | 1.14% | 0.85% |
2W | 0.61% | 0.47% | 0.57% | 0.94% | 1.27% | 0.93% | 2.75% | 1.36% |
6W | 1.25% | 0.91% | 1.07% | 3.36% | 3.29% | |||
残留雑音 | 0.3mV | 0.3mV | 0.3mV | 0.25mV | 0.22mV | 0.23mV | 0.25mV | 0.27mV |
利得 NoNFB | 61倍 | 60倍 | 61倍 | 68.5倍 | 75.3倍 | 79.4倍 | 68倍 | 78.1倍 |
NFB | 21.7倍 | 21.5倍 | 21.7倍 | 22.8倍 | 23.1倍 | 23.9倍 | 22.4倍 | 23.2倍 |
帰還量 | 9db | 8.9db | 9db | 9.6db | 10.3db | 10.4db | 9.6db | 10.5db |
2. 周波数特性
各管種とも下表の通り広帯域です。
WE300B、300B/n、300B | 12Hz〜58KHz -3db |
50 | 14Hz〜70KHz -3db |
PX25/n/5V | 15Hz〜68KHz -3db |
205D | 19Hz〜61KHz -3db |
低域は素直に減衰しています。高域は200KHz〜400KHzにかけて入力トランスの特性と思われる乱れが見られますが、すでに利得が30db以上減衰している帯域ですので、音質、負帰還安定度、共に問題は生じません。
300B/n実装での10KHz方形波波形を示します。他の管種でも同様に良好な波形が得られます。
6Ω | 6Ω+0.01μF | 6Ω+0.1μF | 6Ω+1μF |
無負荷 | 0.01μFのみ | 0.1μFのみ | 1μFのみ |
4. 歪率特性
1.真空管
300B、300B/n、50、PX25/n/5V、205Dは天津のFullMusic社製です。
WE300Bは手持ちの物を使用しました。
整流管274B/nは天津のFullMusic社製です。
12AX7LPSはロシアSovtek製です。
2.抵抗
10Wと5Wの多くはセメント抵抗、その他の抵抗は不燃性(酸化金属皮膜)抵抗です。性能、安定度の点で高圧が掛かる真空管アンプには適した抵抗と思います。
3.コンデンサ
電解コンデンサは普及型の85度又は105度小型縦型品種です。
4.トランス
入力トランスは弊社RC-20、出力トランスはRW-20です。
電源トランスはノグチPCM-170M、チョークはPCM-1520です。どちらも安価で良質な製品です。
5.シャーシ
弊社穴あけ塗装済みMS-2a型を用いました。
6.配線材
UL1015規格線(AC600V耐圧、105度)がお勧めです。太さは小電流部がAWG22、大電流部がAWG20で十分と思います。
あまり太い線は配線しづらいと思います。
7.使用部品一覧
モノアンプ1台分です。
主要部品のみです。ネジ類、配線材、小物パーツ等は別途必要です。
メーカー、販売店、価格には不明・不正確な箇所があります。
部品番号 | 仕様/型番 | 品種 | メーカー | 販売店 | 価格 |
C01 | 100P | ポリプロピレンコンデンサ | |||
C02 | 1000uF16V | OS | パナソニック | 秋月 | |
C03 | 100uF400V | 小型縦型電解 | ニッケミ | ||
C04 | 220uF160V | 小型縦型電解 | ニッケミ | ||
C05 | 47uF250V | 小型縦型電解 | ルビコン | ||
C06 | 47uF250V | 小型縦型電解 | ルビコン | ||
C07 | 47uF450V | 小型縦型電解 | KEMET | Mouser | |
C08 | 47uF450V | 小型縦型電解 | KEMET | Mouser | |
C09 | 47uF450V | 小型縦型電解 | KEMET | Mouser | |
C10 | 22uF450V | 小型縦型電解 | ニッケミ | Mouser | |
C12 | 12000uF16V | 小型縦型電解 | ニッケミ | Mouser | |
C13 | 12000uF16V | 小型縦型電解 | ニッケミ | Mouser | |
C14 | 12000uF16V | 小型縦型電解 | ニッケミ | Mouser | |
C16 | 1500P | ポリプロピレンコンデンサ | |||
DB02 | CP3508 | 8Aダイオードブリッジ | 秋月 | ||
R01 | 100K/1W | カーボン被膜抵抗 | Xicon | Mouser | |
R02 | 10K/1W | カーボン被膜抵抗 | Xicon | Mouser | |
R03 | 3.9K/1W | カーボン被膜抵抗 | Xicon | Mouser | |
R04 | 10/1W | カーボン被膜抵抗 | Xicon | Mouser | |
R05 | 100K/3W | 金属皮膜抵抗 | |||
R06 | 1K/1W | 不燃性(酸化金属皮膜)抵抗 | タクマン | 千石 | |
R07 | 5.1K/10W | セメント抵抗 | |||
R08 | 100/2W | 不燃性(酸化金属皮膜)抵抗 | タクマン | 千石 | |
R9 | 330/1W | カーボン被膜抵抗 | Xicon | Mouser | |
R10 | 22/2W | 不燃性(酸化金属皮膜)抵抗 | タクマン | 千石 | |
R11 | 22/2W | 不燃性(酸化金属皮膜)抵抗 | タクマン | 千石 | |
R12 | 220/3W | セメント抵抗 | タクマン | 千石 | |
R13 | 820/20W | セメント抵抗 | タクマン | 千石 | |
R14 | 27K/2W | 不燃性(酸化金属皮膜)抵抗 | タクマン | 千石 | |
R15 | 27K/2W | 不燃性(酸化金属皮膜)抵抗 | タクマン | 千石 | |
R16 | 68K/3W | 不燃性(酸化金属皮膜)抵抗 | タクマン | 千石 | |
R17 | 1K/10W | セメント抵抗 | タクマン | 千石 | |
R18 | 0.5/5W | セメント抵抗 | タクマン | 千石 | |
R19 | 0.5/5W | セメント抵抗 | タクマン | 千石 | |
R20 | 0.82/5W | セメント抵抗 | タクマン | 千石 | |
R21 | 0.2/5W | セメント抵抗 | タクマン | 千石 | |
T01 | RC-20 | 入力トランス | ソフトン | ソフトン | 10800 |
T02 | RW-20 | シングル型出力トランス5KΩ20W | ソフトン | ソフトン | 10800 |
T03 | PMC1520H | チョーク | ノグチ | ノグチ | |
T04 | PMC-170M | 電源トランス | ノグチ | ノグチ | |
V01 | 12AX7LPS | 電圧増幅管 | ソブテック | ||
V02 | EL34 | ドライバー管 | ソブテック | ||
V03 | 50/300B/205D | 出力管 | Fullmusic | ||
V04 | 274B | 整流管 | Fullmusic | ||
VR01 | 100KA | 単連ボリューム | コスモス | ||
SW2 | 4回路3接点 | ロータリースイッチ | アルプス | ||
ヒューズ 2A | |||||
9ピンMTソケット1個 | QQQ | ||||
8ピンUSソケット2個 | QQQ | ||||
UXソケット 1個 | |||||
4L1Pラグ板 4個 | |||||
6L1Pラグ板 2個 | |||||
MS2aシャーシ | ソフトン | ソフトン | 15000 |