205D プッシュプル 12W / 300B プッシュプル 18W
モノラルアンプの製作

205Dと300Bを使用できるプッシュプルアンプをご紹介いたします。 205Dは古風な球形の外観と素直でバランスの取れた物理特性を持った直熱3極管で、初期の真空管の特徴を良く残しています。 205Dは真空管の起源とその音質を教えてくれます。 300Bは最後期の直熱3極管で、直熱3極管の完成された姿の1つと思います。 高い物理的性能と定評ある音質を持ち、最も有名な真空管です。
本アンプは205Dと300Bを無調整、無変更で共用できる点を特徴としています。 今回は下記の4種の205Dと300Bを用いてみました。

205D プッシュプル / 300Bプッシュプル アンプ定格 各管種ごと

205D

205Dメッシュ

WE300B

EH300B

最大出力

12W

10W

18W

18W

周波数特性(1W +0、-3db)

7〜63KHz

7〜60KHz

ダンピングファクタ

3.5

9.5

歪率(1KHz) 1W
10W
16W

0.17%
2.22%

0.6%
5.96%

0.054%
0.47%
3.09%

0.068%
0.48%
4.0%

残留雑音(聴感補正無し)

0.21mV

0.19mV

0.26mV

0.24mV


各管実装時外観。 写真をクリックすると拡大表示されます。
205D
205Dメッシュ
WE300B
EH300B

205D / 205Dメッシュ

天津 FullMusic製の205D(写真左)と205Dメッシュ(写真右)です。オリジナルのWestan Electric製WE205Dと同一のプレート特性を持つと発表されています。 しかしオリジナルWE205Dとはフィラメント電流とソケット仕様が異なり、フィラメント電流は1.6Aから1.2Aに減少、ソケットはスモールUVから300Bや2A3と同じ一般的なUXに変更されています。フィラメント電流の減少はフィラメント材の進歩による省エネ化、ソケットは現代での入手容易性への配慮です。
WE205Dと同様、2枚の板状のプレートを持っています。本当に板状で箱状ではないので左右のサイドは開放です。フィラメント、グリッド、プレートの間隔が広く、グリッドも目の広い間隔で巻かれています。古典管らしいゆったりとした作りです。フィラメントはM字状に張られています。
205Dメッシュ管はFullMusic製の205Dの改良品です。メッシュプレートごしに見えるフィラメントの輝きが魅力的です。FullMusic 205Dからの改良点は下記の通りです。

WE300B / EH300B

ウエスタン エレクトリック製WE300B(写真右)とロシアelectro-harmonix製 EH300B(写真左)です。最も有名で高性能な直熱3極出力管です。WE300Bは評判に違わぬ高い物理性能を発揮してくれました。EH300Bはロシア ソブテック系300Bの最新版です。初期にあったフィラメント断線故障も克服され、安定した性能を持つ優れた300Bに成長しています。実装時の動作点はWE300Bに酷似しており高い互換性を示します。物理特性もWE300Bに迫る好成績です。

アンプの設計方針

本アンプは以下を目標に製作いたしました。

アンプの構成

1.205Dと300Bの共用
各特性も最大定格も異なる205Dと300Bを無変更で使用できる工夫を行いました。
●フィラメント電圧の問題
205Dのフィラメント電圧は4.5V、300Bのフィラメント電圧は5Vです。そこで中間の4.7〜4.8Vで点火しました。4.75Vであれば205Dにとっては6%高、300Bにとっては5%減でどちらも許容の範囲内です。
●プレート特性の違いの問題
205Dは比較的μもRpも高いのに対し、300Bは低μ、低Rpの特性をしています。バイアス値も205Dは-20V程度なのに対し、300Bは-50〜-70Vもあります。この性格の違いは、同じカソードバイアス抵抗を用いると300Bは205Dより多くのプレート電流が流れる事を意味します。そこで本アンプでは205Dの場合はあまりプレート電流が流れずAB級PP動作となり、300Bの場合はより多くのプレート電流が流れてA級PP動作となる、カソードバイアス抵抗値を選定しました。

2.全体構成

電圧増幅とドライバに用いたECC99はチェコ JJ社の新型管です。 ECC99は双3極管でRp 2.3KΩ、μ22、Pd 5Wの強力な電圧増幅管です。


3.出力段
自己バイアスのPP出力回路で自己バイアス抵抗は各出力管ごとに680Ωです。自己バイアス抵抗は2管共通ではなく、各管ごとに設けます。680Ωの自己バイアス抵抗により205DではAB級PP、300BではA級PPとなります。ドライバトランスの2次側には負荷抵抗を設けず、オープンで使用します。RC-20イントラは高域特性が素直ですのでオープン使用でも高域が暴れません。出力トランスはRX-40-5を用います5KΩPP:6Ω 40W容量の出力トランスを2次側8Ω負荷で用いますので、1次は6.6KΩPPとなります。

各管の動作点(出力管1本当たり)
205D 205Dメッシュ WE300B EH300B
フィラメント電圧 4.8V 4.65V 4.8V 4.75V
無信号Vp 380V 390V 327V 327V
無信号Vk 20.3V 20.2V 17.6V 17.8V 51.5V 51.5V 52V 52.2V
無信号Ik 29.9mA 26.0mA 75.7mA 76.6mA
無信号時プレート損失 10.8W 9.7W 21W 21W
10W時Vp 363V 366V 15W時Vp 322V 323V
10W時Vk 29.6V 30.8V 15W時Vk 53.2V 53.7V
10W時Ik 43.5mA 45.2mA 15W時Ik 78.2mA 79mA
10W時プレート損失 9.5W 10.2W 15W時プレート損失 13.5W 13.8W

フィラメント電圧は4.65V〜4.8Vでいずれの管でも許容範囲内に収まっています。無信号時プレート損失も205Dで約10W、300Bで約21Wと、これも最大プレート損失内です。205Dのカソード電流は無信号時約30mAから10W時約45mAに増加しAB級PP動作であることを示します。これに対して300Bのカソード電流は無信号時約75mAが15W時約79mAで殆ど増加せずA級PP動作であることを示します。
205Dの10W時プレート損失は約10W、300Bの15W時プレート損失は約14Wで共に最大出力付近でも最大プレート損失内の安全な動作である事がわかります。WE300BとEH300Bは各項目の値が殆ど同一で高い互換性があります。

4.ドライバ段
ECC99 1/2とRC-20大型入力トランスの組み合わせによりグリッド電流に負けない高出力を得ています。RC-20入力トランスは1次直列、2次PP結線です。1:0.9+0.9で位相反転と1:1.8の増幅動作を行います。RC-20の2次側は負荷抵抗なしのオープン(開放)使用とします。オープン使用特有の伸びやかな音質が得られると共に、入力トランスからの全供給電流を無駄無く出力管のグリッドに送り込む事ができます。
ECC99 1/2は実行プレート電圧約200V、プレート電流約15mAで動作します。

5.電圧増幅段(初段)
電圧増幅段はECC99 1/2です。プレート負荷抵抗は33KΩです。次段のドライバ段とは直結としました。入力にある10KΩと50PFのハイカットフィルタは外来高周波雑音やSACDの漏れ雑音の阻止用です。

6.負帰還
本アンプは裸利得が205D時で66倍、300B時で76倍と高く、そのままでは使いにくく、また内部抵抗が比較的高い205Dでは適切なダンピングファクタが得られず低域の制動に難があります。
そこで負帰還を用いて利得の減少とダンピングファクタの増加を図ります。仕上がり利得の目標を20倍程度とした帰還抵抗を設定し、205Dでは9.5db、300Bでは10.5dbの負帰還を掛けています。
負帰還により205Dで約3.5、300Dで約9.5と適切なダンピングファクタが得ています。
2段のトランスを含む負帰還にも係わらず、RC-20入力トランスとRX-40-5出力トランスの素直な高域特性により非常に安定した動作と良好な容量負荷時方形波応答特性を示します。

7.電源部
電源トランスはノグチの安価な汎用品PMC-170Mです。AC320Vを整流管5U4Gによりセンタータップ整流する事により205D時380V、300B時330Vの直流電圧を得ました。チョークもノグチの汎用品PMC-1520です。多用しています400V100μFの電解コンデンサは弊社で配布を行ったユニコン製縦型小型一般品です。
フィラメント4.75Vは直流点火としてハム雑音の低減を図ります。PMC-170Mの6.3V-0V端子間を各々ブリッジ整流し、4700μF、1.2Ω、10000μFのフィルタによてリップル分を減少と直流電圧の調整をしています。

全回路図

全回路図(205DPPSEM.GIF)

アンプシャーシ、外観、内部配線

シャーシは弊社のMS-2a モノラルアンプ用シャーシです。縦長のシャーシでステレオで2台並べるとフルサイズコンポのアンプと同程度の幅となります。
シャーシ前方(写真では左側)からECC99、出力管205D/300B 2本、整流管5U4Gと並びます。出力管と整流管の間にあるのがハムバランサ用ボリュームです。


内部配線状況

電圧増幅段、ドライバ付近
出力段付近
フィラメント電源付近
電源トランス付近

製作上の注意

感想と音質

205Dの音質は軽やかで精密です。帯域も広く、透明度も高い明瞭な音質をしています。古風な外観とは異なり現代的な音がするのには驚かされます。
300Bの音質は落ち着きと重厚さがあります。伸びやかで余裕のある音質です。音楽の強音部をとても伸びやかに再生します。この余裕が本当の意味での音の柔らかさと細かな雰囲気を伝えてくれると感じました。

測定結果

1.入出力特性


1W 1KHz 10W 1KHz 18W 1KHz
205D
WE300B

300BはWEもEHも共に素晴らしい入出力直線性を持っています。205Dは1W以上で若干伸びが鈍ります。特に205Dメッシュは鈍り度合いが大きくなっています。

2.周波数特性

205D、300B共に無帰還時で11Hz〜23KHz(+0,-3db)と可聴周波数範囲を満足します。トランス2段、入力トランスの2次開放使用にも係わらず、低域・高域端とも素直な減衰特性を持ちます。高域100KHz以上にの軽微な暴れは入力トランスの特性です。しかし、既にアンプとしての利得が減少していますので大きな問題とはなりません。 10W時の低域減衰は出力トランスの飽和の影響です。

負帰還を掛けると205Dが7Hz〜63KHz(+0,-3db)、300Bが7Hz〜60KHz(+0,-3db)の広帯域となります。1Wは10Hzまで平坦です。0.1Wは低レベルによるトランスのインダクタンス減少の結果、低域時定数スタッガ比が足りず若干盛り上がります。10Wの低域特性は出力トランスの飽和による減衰です。飽和したトランスを負帰還により無理に駆動しようとする為、無帰還時より悪い低域減衰特性となってしまいます。
高域は無帰還時の特性がそのまま引き継がれています。

3.方形波応答
100Hzと1KHzは非常に良好な波形を示します。10KHzでは100KHz超にある暴れの影響で軽微なリンキングが見られます。

8Ω負荷 100Hz 1KHz 10KHz
205D
WE300B

容量負荷に対しても極めて安定です。

10KHz 8Ω 8Ω+0.01μF 8Ω+0.1μF 8Ω+1μF
205D
WE300B

10KHz 無負荷 0.01μFのみ 0.1μFのみ 1μFのみ
205D
WE300B

4.歪率特性
無帰還時
205Dは1W強までA級PP動作をし低歪率です。1W以上ではB級PP動作でかつグリッド+領域での動作に入る為歪が増えます。 300Bは全域がA級PP動作なので高い出力まで低歪みです。特に1KHzでは歪み打ち消しが有効に働き広い範囲で極めて低歪みとなっています。100Hzと10KHzは1KHzほど歪み打ち消しが働らいていませんが無帰還アンプの絶対値としては優秀です。

各管種による1KHzの歪率比較ではWE300Bが最も良好です。205Dメッシュの歪率は良くありません。

負帰還時

負帰還により歪率は約1/3に減少します。WE300Bの1KHz歪率は8Wまで0.1%以下と大変優れています。

5.残留雑音
いずれの出力管でも0.2mV程度と直熱出力管を用いたアンプとしては優れています。

205D 205Dメッシュ WE300B EH300B
残留雑音(聴感補正無し)

0.21mV

0.19mV

0.26mV

0.24mV

6.ダンピングファクタ
205Dでは3.5、300Bでは9.5と十分なダンピングファクタが得られました。

使用部品

1.真空管
FullMusic 205D及びFullMusic 205Dメッシュは天津のFullMusic社製です。
WE300Bは手持ちの物を使用しました。
ロシア electro-harmonix製 EH300Bは秋葉原で1ペア19,000円にて購入しました。
5U4GはロシアSovtek製、ECC99はチェコJJ社製です。いずれも秋葉原にて安価に購入できます。

2.抵抗
680Ω10Wと1.2Ω5Wはセメント抵抗、その他の抵抗は不燃性(酸化金属皮膜)抵抗です。性能、安定度の点で高圧が掛かる真空管アンプには適した抵抗と思います。

3.コンデンサ
電解コンデンサは普及型の85度小型品種でかまいません。製造から年月を経た旧型の大型品種よりは近年に(2〜3年以内に)製造された品種の方が良いと思います。オーディオ用等特殊な物よりの売れ筋で品物の回転が早い一般品種の方が良い結果となる事も多々あります。

4.トランス
入力トランスは弊社RC-20、出力トランスはRX-40-5です。
電源トランスはノグチPCM-170M、チョークはPCM-1520です。どちらも安価で良質な製品です。

5.シャーシ
弊社穴あけ塗装済みMS-2a型を用いました。

6.配線材
UL1015規格線(AC600V耐圧、105度)がお勧めです。太さは小電流部がAWG22、大電流部がAWG20で十分と思います。
あまり太い線は配線しづらいと思います。

7.使用部品一覧
モノアンプ1台分です。
主要部品のみです。ネジ類、配線材、小物パーツ等は別途必要です。
メーカー、販売店、価格には不明・不正確な箇所があります。
部品番号 仕様/型番 品種 メーカー 販売店 価格
C01 50P ディップマイカコン シーアール 90
C02 1000uF16V 小型縦型電解 ニッケミ
C03 220uF160V 小型縦型電解 ニッケミ
C04 330uF100V 小型縦型電解 ニッケミ
C05 330uF100V 小型縦型電解 ニッケミ
C06 3000PF マイラ 東信工業 千石
C07 47uF250V 小型縦型電解 ユニコン ソフトン 100
C08 100uF400V 小型縦型電解 ユニコン ソフトン 180
C09 100uF400V 小型縦型電解 ユニコン ソフトン 180
C10 100uF400V 小型縦型電解 ユニコン ソフトン 180
C11 100uF400V 小型縦型電解 ユニコン ソフトン 180
C12 22uF450V 小型横型電解 エルナ
C13 10000uF16V 小型縦型電解 東信工業 千石 150
C14 10000uF16V 小型縦型電解 東信工業 千石 150
C15 4700uF16V 小型縦型電解 東信工業 千石 150
C16 4700uF16V 小型縦型電解 東信工業 千石 150
DB01 CP3508 8Aダイオードブリッジ 秋月
DB02 CP3508 8Aダイオードブリッジ 秋月
R01 100K/2W 不燃性(酸化金属皮膜)抵抗 タクマン 千石 20
R02 10K/2W 不燃性(酸化金属皮膜)抵抗 タクマン 千石 20
R03 510/2W 不燃性(酸化金属皮膜)抵抗 タクマン 千石 20
R04 10/2W 不燃性(酸化金属皮膜)抵抗 タクマン 千石 20
R05 33K/3w 不燃性(酸化金属皮膜)抵抗
R06 1K/2W 不燃性(酸化金属皮膜)抵抗 タクマン 千石 20
R07 6.2K/5W 不燃性(酸化金属皮膜)抵抗 TDD
R08 22/2W 不燃性(酸化金属皮膜)抵抗 タクマン 千石 20
R09 22/2W 不燃性(酸化金属皮膜)抵抗 タクマン 千石 20
R10 680/10W セメント抵抗 タクマン
R11 680/10W セメント抵抗 タクマン
R12 330/2W 不燃性(酸化金属皮膜)抵抗 タクマン 千石 20
R13 10K/2W 不燃性(酸化金属皮膜)抵抗 タクマン 千石 20
R14 33K/3W 不燃性(酸化金属皮膜)抵抗
R15 3.3K/3W 不燃性(酸化金属皮膜)抵抗
R16 3.3K/5W 不燃性(酸化金属皮膜)抵抗 TDD
R17 1.2/5W セメント抵抗 タクマン
R18 1.2/5W セメント抵抗 タクマン
T01 RC-20 入力トランス ソフトン ソフトン 9800
T02 RX-40-5 プッシュプル型出力トランス5KΩ40W ソフトン ソフトン 9800
T03 PMC1520H チョーク ノグチ ノグチ 4500
T04 PMC-170M 電源トランス ノグチ ノグチ 7900
V01 ECC99 JJ
V02 205D/300B FullMusic
V03 205D/300B FullMusic
V04 5U4 Sovtek
VR01 100KA RV24YN 単連ボリューム コスモス 350
VR02 50B/2W RV30YN 単連ボリューム コスモス 500
9ピンMTソケット1個 QQQ 100
USソケット 1個 QQQ 100
UXソケット 2個
4L1Pラグ板 3個
2L1Pラグ板 2個
2A ヒューズ 1個
MS2a シャーシ 塗装穴あけ済、外装パーツ付属 ソフトン ソフトン 15000


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