この写真は解説の為、蓋を開けています。内部には高電圧が掛かっている部分がありますので絶対に開けないで下さい。
Model9では相補式増幅回路を用いて低歪率を実現しています。
半導体の入出力の関係は指数関数をしています。
直線(一次)関数ではない為に出力信号に歪が生じます。
半導体には相補関係にあるNch素子とPch素子があり互いに電圧・電流の方向が逆向きの指数関数を持ちます。
生じる歪も逆向きとなるので、Nch素子とPch素子の出力を合成すると歪は打消し合い、低歪率の出力が得られます。
詳細は下記をご参照下さい。
相補式増幅回路解説
ヘッドホンアンプは電圧増幅段と出力段で構成されます。
電圧増幅段はMOSFETのソース接地増幅回路です。
NchとPchのMOSFET、M1とM2のドレインがC3 1000uFのコンデンサで結ばれて相補式増幅回路を形成します。
出力段はヘッドホンへの電力供給に適したトランジスタのエミッタフォロワです。
電圧増幅段に1石、出力段に1石、それを相補式とする為のNchとPchがあり、計4石で構成される簡潔な回路です。
相補式ソース接地増幅回路に用いるNchMOSFETとPchMOSFETには
小信号用MOSFETを選びます。
今回は東芝製のNch・PchデュアルMOSFET SSM6L35FU を選びました。
SSM6L35FUは広帯域・アナログスイッチ用のデュアルMOSFETです。
特性が揃ったNchMOSFETとPchMOSFETが1チップ上に作り込まれています。
同一チップ上なので同じ温度にて動作しますし、特性も広帯域小信号増幅に適しています。
高価なヘッドホンを保護する保護回路を備えます。
保護回路は以下の条件でヘッドホンを切り離します。
アンプ回路、音量調節ボリューム、ヘッドホン端子、電源回路、保護回路、トランス等殆ど全てを1枚のプリント基板に搭載しています。
下記はプリント基板上の回路図のPDFファイルです。
Schematic Design_ NONFB-HPamp2.pdf
最大出力 32Ω負荷 | 400mW |
増幅度 | 6dB 2倍 |
周波数特性 | 1.5Hz〜500KHz (-3dB) |
歪率特性 | 10mW 0.01% 100mW 0.06% 400mW 13% |
残留雑音 無補正 | 35μV |
残留雑音 JIS-A補正 | 12μV |
入力換算雑音 無補正 | 15μV |
入力換算雑音 JIS-A補正 | 5.2μV |
帯域は1.5Hz〜500kHz(-3dB)と広帯域です。無帰還である事を感じさせません。
無帰還にも関わらず低歪率が実現できました。
1kHzと10kHzでは
10mWで0.01%、100mWで0.06%、と優秀です。
100Hzは1kHz、10kHzに比べ劣りますが、100mWで0.1%と良好な特性です。
最大出力0.4Wでした、ヘッドホンには十分な高出力です。
無帰還にも関わらず低歪率が実現できました。
100mW出力で0.05%です。
10mWでは0.02%で測定系の測定限界です。100uW〜10mWまでは測定系の限界値なので実際はもっと低歪かもしれません。
1kHz,10kHz,100Hzの歪率も良く揃っています。
クリップの兆候が現れる0.2W出力までは偶数次調波が主体です。
多くの歪打消し技法では偶数次調波が打ち消され奇数次調波が主体として残るのですが、
相補式では逆に偶数次調波が主体となっています。